蓮稀自身は椅子に腰掛けず、床に片膝をついたまま崩れないよう支えた。
「まったく…」
ぼやきとは裏腹にその手つきは慎重で、暫くすると雪美の呼吸が整い静かな寝息に変わる… 酔いに任せて眠ってしまった。
蓮稀はふとその寝顔に視線を落とす。無防備で、あまりにも無垢な雪美の寝顔。
-- 酔っ払いとはいえこれは無謀すぎる
胸の奥で冷たい考えがよぎる。もしこれが自分ではなく下心を持つ男だったなら。眠っている間に何をされてもおかしくはない。
蓮稀は顔を背け息を吐いた。
「…危なっかしい女だ」
そう呟きながら、雪美の側を離れることはなかった。
夜の揺れの中、雪美を守るように目を離さず、ただ静かに雪美の家へと向かう… その背には、宴の灯りはもう届いていなかった。
雪美の家に着くと、馬車… いや、車のようなその乗り物が静かに止まった。
「着きました」
御者の声が低く響く、蓮稀は短く応じると眠ったままの雪美をそっと抱き上げた。
腕の中で軽い体がわずかに揺れる… いわゆる姫抱きの体勢で。
「は、蓮稀様にお手を煩わせるわけには!ここは私どもが…」
御者が慌てて身を乗り出すが蓮稀は首を横に振った。
「いい、俺が部屋まで連れていく」
雪美の家の敷居を跨ぐとひんやりとした空気が広がり思った以上に広い屋敷だった。
廊下は長く灯りもまばらで、今夜は人の気配がない。宴に出払っているのかそれとも既に休んでいるのか。
「…静かすぎるな」
小さく呟きながら蓮稀は廊下を進む。
幾つも並ぶ襖を、ひとつ、またひとつと開けては閉める。どの部屋も整ってはいるがどこかが違う。
-- どれが、雪美の部屋だ?

