抱き寄せたい衝動を必死に抑え " 今は、安心させることだけ " を自分に言い聞かせる。
雪美の瞳は虚ろで、空を見ているのか、何も見ていないのか分からない。呼吸は浅く名前を呼ばれてもすぐには焦点を結ばない。
「雪美、俺だ… 蓮稀だ… 」
何度も何度も確かめるように名を呼んだ。
やがて、ほんの僅かに雪美の指先が動いた。その小さな反応に蓮稀の喉が詰まる。
「…もう、大丈夫だ」
そう言い聞かせるように、蓮稀はそっと雪美を包んだ。ボロボロになった体を覆い、外の冷えから守るように決して強くは抱かず、壊れ物に触れるような慎重さで…
雪美の唇がかすかに動く。
声にはならなかったがその形は確かに助けを求めていた。
蓮稀は歯を食いしばり夜の闇を睨む。胸の奥で怒りと後悔と守れなかった自分への憎しみが渦を巻く。
「… 遅くなって、すまない」
答えが返らないと分かっていても蓮稀はそう告げた。
川面は静かなまま何事もなかったように星を映している。
蓮稀はそのまま雪美を家に送るのではなく海沿いの小さな漁師小屋へ向かった…

雪美のこんな姿を誰の目にも触れさせない為だった。
小屋の中で雪美は起きたことを途切れ途切れ、ゆっくり蓮稀に語った。
言葉にする度、心の奥がひび割れる…
怖い、まだ頭の中は追いつかない。
全ての話しを聞き終えた蓮稀の顔は怒りに染まり立ち上がる、申又の所に向かおうとするが雪美は襟袖を持ち引き止める。
「… お願い、1人にしないで」
その一言で蓮稀は頬を赤く染め動けなくなった。視線を落とし息を整え、やがて低く告げる。
「…申し訳ない、不謹慎にも抱きたいと思ってしまった」

