サクラはそう言うと、呪文を唱えながら杖を一振りする。すると、応接室のテーブルの上に書類が現れた。数百ページほどはある分厚い資料をイヴァンは手に取り、読んでいく。その顔は少しずつ険しいものになっていった。

「ここ最近、シャーデンフロイデによる被害が増えています。アルストロメリアの様々な場所で奴は目撃され、家屋などに被害が出ています。つい三日前にも王都にシャーデンフロイデが姿を見せ、大騒ぎになりました」

「シャーデンフロイデ……」

ヴァイオレットは呟き、アルストロメリアの歴史について書かれた書物を思い出す。シャーデンフロイデとは、今から三百年前ほど前に突如として姿を現したドラゴンの名前だ。多くの人々を鋭い爪で殺害し、炎で多くの街を焼き尽くした。しかし、シャーデンフロイデは旅をしていた剣士のレオナルド・ステファノティスによってアルストロメリアのどこかに封印されたはずだ。

「封印が解けたということですか?」

ヴァイオレットが訊ねると、サクラは「わかりません」と言い悔しげな顔をする。

「シャーデンフロイデが一体どの辺りに封印されたのか、城に住む者はおろか学者ですらわからないのです」

「なるほどね……」

イヴァンはそう呟いた後、書類を机の上に置く。そして呪文を唱えて空中から何かを出した後、ヴァイオレットに言った。

「ヴァイオレット、そのドレスからこっちに着替えて来てくれないかな?」

イヴァンの手にあったのは、一般市民が着ているワンピースだった。