人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜

魔法家系であるイザベルの代わりなど、ヴァイオレットにできるはずがない。きっとすぐに気付かれるだろう。気付かれた後のことは恐ろしく、ヴァイオレットは考えるのをやめた。

「ミモザ、私は大丈夫だから」

ただ、そう言うしかできない。



翌日からヴァイオレットはメイドの仕事ではなく、チャールズが雇った家庭教師に礼儀作法などを結婚の日までに叩き込まれることとなった。ダンスや楽器、刺繍や貴族のテーブルマナーなど、今までヴァイオレットが触れたことのないものばかりが次々と教えられていく。

「偽物とはいえ、私の代わりに嫁ぐんだからランカスター家の恥になっちゃ困るもの」

「そうだな。最低限のことは覚えるように」

イザベルとチャールズは勝手なことばかり言う。ヴァイオレットは、読書をする暇さえないほど勉強を詰め込まれていく。ミモザにこのことを話したいと思ったものの、ヴァイオレットは結婚することが決まってすぐに新しい部屋が与えられ、ミモザと話すことはできなくなってしまった。

（すごく怖い……。全然大丈夫じゃない！）

そう思ったものの、魔法家系の高貴なお嬢様は不安や不満を態度や口にしてはいけないと家庭教師に口酸っぱく言われているため、心の奥に閉じ込めておかなくてはならない。