ヴァイオレットは目の前でパンを食べているイヴァンを見つめる。一年後も、十年後も、こうしてイヴァンやアイリス、リオンと共にテーブルを囲みたい。その一心でヴァイオレットは口を開く。

「イヴァン様、魔法の歴史について書かれた本はこの屋敷にありますか?」

「あるよ。僕の寝室の本棚に入ってる」

「それを貸していただけないでしょうか?知りたいのです。魔法について、イヴァン様の生きている世界について、知りたいのです」

「わかった。朝ご飯が終わったら持って来るよ」

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

次に、ヴァイオレットはメイド服のポケットから小さな紙を取り出し、隣に座っているアイリスの膝を指で叩く。こちらを見たアイリスの手の中にヴァイオレットは強引に紙を捩じ込んだ。

驚いた様子のアイリスだったが、紙に書かれた言葉を見てニヤリと笑う。ヴァイオレットは顔を真っ赤にしながらも、「教えてほしいの」と小声で言った。

『ヘアアレンジの仕方とメイクの仕方を教えてください。イヴァン様に可愛いって思ってもらいたいの』

ヴァイオレットの瞳は、まるで夜空に浮かぶ星のようにどこか煌めいていた。