ふと、顔をあげて大友くんの姿を探してしまった。
でも。
大友くんはいなかった。
トイレに行っているのか、生徒会の集まりがあるのか、職員室に呼ばれているのかはわからないけれど。
彼がいなくて、ホッとした。
みんなと同じように笑っているところを、見たくはなかったから。
(良かった)
そう思うと、真っ暗でドス黒い心もほんの少し落ち着く気がした。
また朝を迎えて。
学校を休みたい、と両親に訴えようと思った。
だけどキッチンで、私のお弁当を忙しなく包んでいるお母さんの、丸くてぽちゃぽちゃな手を見ていたら、言えなかった。
会社に行くためにネクタイを結んでいるお父さんの広くて厚みのある背中を見て、通学鞄を手にするしかない、と思った。
あの空間に行くことは本当に嫌だけど、両親を心配させることは、もっと嫌だと思った。
悲しませない、と念じつつ、玄関のドアを開けた。



