「……なんか、気持ちが途切れちゃったんだ」

 呟くような静かな声。さっきまで聞こえていた別の部屋の歌声も、曲が終わったのか聞こえなくなっていた。

「走るのが好きだった。前の中学の陸上部ではいい記録も出せて楽しかった。でも、父親の転勤が急に決まって引っ越す事になって……陸上部辞めたくなかったから俺は引っ越したくなかったけど、そんなの出来なくて……」

 朔間くんは自分のアイスコーヒーに手を伸ばす。氷が溶け始めていて、上の方が薄い色になってしまっている。

「陸上部のヤツとか顧問の先生が入部しろって言ってくるけど、でも……」

 なんだか朔間くんは、迷子になっているように感じる。

 陸上部だったし男の子だから、私よりずっとしっかりした大きい体格をしているのに。少し前のめりに背を丸めて座る朔間くんは、何処に行ったらいいのか分からず心細そうに見える。

 海を泳ぐクジラにも、迷子がいるんだそうだ。仲間に聞こえない52ヘルツで鳴く迷子のクジラ。

「やりたくなければ、やらなくていいと思う」

 思わずそんな言葉が口から出てしまった。朔間くんも驚いてこちらを見た。

「やりたくなるまで待てばいいし、本当にやりたくなかったらやめちゃえばいいんだよ、きっと」