「――じゃあ、次の音読はえーと、森、立って。 森文香(もりふみか)、五行目から読んで」

 どうか、どうか当たりませんように……心の中でそう祈っていたのに、出席番号順の無情。先生の口から私の名前が吐き出された。

 中学二年になった国語の授業は、最初の十分間に先生の選んだ本を生徒が音読する、というのが習慣になっていた。声に出して読むことにより、脳が活性化されるとかなんとか。

 順番は公平に出席番号順。だから今日自分が当たる事は、時間割を数えればとっくに決まっていた事だった。

 先生が私の机に本を置くと、それを手に渋々と立ち上がった。

 そして――

「聞こえませーん!」

 私が音読を始めてすぐだった。クラスの誰かがそんな声を上げた。それを合図に、みんながクスクスと笑った。

「そうだなあ、森! もう少し、腹から声出して読んでくれ」

 悪気ない先生の言葉にまた笑い声。晒し者みたいで恥ずかしくて、私は返事もせずにうつむいた。顔が熱い……

 もう一度、今度は俯きながらだけど、自分なりにさっきより大きな声で読み始めた。

 しかしまた、クスクスと笑い声が聞こえた。

「変な声……」

 笑い声の中に混ぜ込まれたその言葉は、投げつけられた石のように剛速球で私の耳に飛び込んだ。

 どぼん! 落ちてしまった海の中。