「あと、ヨムって?」

「それは……」

 私は答えられずに自分の手を見つめていた。

「もしかしてヨムって、SNSで朗読動画やってるやつ?」

 それも聞こえちゃってたんだ……やっぱりアカウント消さなきゃ。クラス中にバレる前に。

「俺、ヨムの朗読、聞いてる」

 思いもよらない言葉に顔を上げた。

「この前偶然見つけて、朗読を聞いてみたら良かったからフォローしたんだけど。さっき剛里の話に出てきて驚いた」

 馬鹿にするでもなく、淡々とそう話す朔間くん。フォローしたって言ってたけど、もしかして……

「『空芯菜』……?」

「それ、俺のアカウント」

 フォロワーの空芯菜……あれは、朔間くんだったんだ。

「……森さんは、もっと自分の声に自信を持ったほうがいい」

 自信、持てるものなら持ちたい。でも……

 じっと見つめてくる朔間くんの視線から逃げるように、私はまた俯いてしまった。

 しんと静まった保健室。朝のホームルームが始まるチャイムが鳴った。そろそろ教室に戻った方がいいのかもしれない。せめて朔間くんだけでも。

「朗読コンテスト、出なきゃならないんだったら、俺が協力する」

「え……?」

「さっき言ったけど『ヨム』の朗読、俺は好きだ。森さんは印象に残る声だし、才能あると思う」

 そんな事言われたのは初めてだった。いつもと違う恥ずかしさで心臓がドキドキする。

「たまには、剛里に反撃してやってもいいんじゃないか?」

 先月転校してきたばかりの朔間くん。クールでいつも一人でいるけど、クラスの事はよく見ているみたいだ。私の状況を分かった上で、協力してくれるって言っている。

「どうする?」

 もう一度そう問いかけられ、私は静かに頷いた。