ある日、転校生がやってきた。 1st days



「…あのね、レイくん」


私は、レイくんの手を握り返す。

言わなきゃ。私の気持ち。

言っていいんだ。

今私は、大好きなレイくんと、両思い、なんだ。


「私も、レイくんが好きだよ」


飲みかけの私のカフェオレとレイくんのブラックコーヒーが寄り添ったように並んでいる。

淡いハニーブラウンのカフェオレと真っ黒のコーヒーがなんだか私たちみたいだと思う。


「…ふは」


さっきみたいに、レイくんが笑った。

嬉しすぎて溢れ出ちゃった、なんてもう、顔に出てる感じ。

とっても嬉しそうな顔してる。

そんなに、喜んでくれるんだ。


「ありがとう、果音」


レイくんの手が、耳に触れる。頬を撫でる。顎を、持ち上げる。

あ…やばい、これ。

私が壊れるやつだ―――


「めっちゃ嬉しい。俺、今浮かれすぎてるかも」

「わ、私もだよ!」


私だって浮かれてる。

さっきからレイくんの首元にチラつくネックレス、私のとお揃いだ。

自分のも、やっぱり買ってたらしい。

恋人っぽくて、いい。


「果音、俺がなんで最後列がいいって言ったか、わかる?」

「え?うーん、水1粒も当たりたくないとかかなって」

「っく…それ最後列じゃなくてもいい気がするけど」

「それはそうだよね」


レイくんの手はまだ私の顎に触れている。

わあっ、と会場が湧く。

イルカがすごい技でもしたのか。

でもやっぱり音はすぐ遠ざかったような気がした。

私の頭の中はぜんぶレイくんが支配している。

レイくんの手が、私の唇の輪郭をなぞった。


「…っ」


ぞわり。

甘い震えが背中を伝う。

なにかの予感。


「……キス、していい?」


キス!?

待って待って待って、急に何を……!?


「俺、そのために1番後ろを希望したんだけど」

「そうなの!?」

「見てみろって、周りそういう人ばっか」


慌てて見回すと、たしかに最後列にはイルカショーそっちのけでイチャイチャしてる人たちばかり。

嘘…!?


「ステージからは暗くてよく見えないし、周りはこっちなんて見てないし。……しよ、キス」


色気が溢れてる。

確認してくるあたり、紳士なレイくんっぽい。

きっと、ここで拒否したら絶対にレイくんはキスをしないんだろう。

拒否なんてするわけないけど、かと言って肯定するのも恥ずかしい。

だから。


「……」


無言のまま、目を閉じて。

ぎゅっと、レイくんの手を握って。

ふ、とレイくんが微笑む気配がしてから、レイくんの手が頭を固定するように動いた。

それからレイくんの顔が近付いてくる気配がして。

ついに、私の唇に、レイくんのそれが触れた。