「そんなやつのことなんか気にすんなよ、紫。もう姫でもなんでもないんだ」
「あ、赤史くん…」
紫くんが名前を口にするまでもなく。
私には、その声の主がわかってしまう。
赤史は紫くんを私から引きはなすと、私が持っている机を横目に見て、鼻で笑った。
「二葉さん、その机、どうしたの?1人で運ぶのは大変じゃない?わたしも手伝おうか…?」
「桃はやさしいな、こんなやつのことも気にかけて。でも自業自得だからいいんだよ」
当然のように赤史のうしろから顔を出した仁科さんは、眉を下げて心配そうに私を見る。
そんな仁科さんになにか言葉を返すまえに、赤史は仁科さんの肩を抱いて教室に向かっていった。
しばらく、私を心配そうにちらちらと見ていた仁科さんは、本当にただ性格がいい人なんだろう。



