「え…」
まさか、階段わきにあったあの机とイス…!
お腹の奥が冷えて、唇をきゅっと引き結ぶ。
視線を落として体を反転させると、私は流れに逆らって階段に向かった。
「見た?あの顔!」
「ははっ、いい気味だな」
知らない。
なにも聞こえない。
涙なんて、にじんでない。
私はこっそり深呼吸をして、足を速く動かす。
それから、階段わきに置かれた机とイスを持ち上げた。
まえを向いて、教室にもどる。
視線なんて、感じない。
「二葉ちゃん…?それ、どうしたの?大丈夫?」
「紫くん…ちょっと、ね。大丈夫、気にしないで」
うしろから私のよこに回りこんできたのは、紫くん。
紫くんだけは、いまもやさしくしてくれてる。
だから、心配させないように笑い返して、机とイスを運ぼうとした。



