「わ、私、く──、」
危ない。黒菊です、と言いかけた。
「突然すみません、ノアです。……MAPLE PALACEの、キャストの」
『……あー、いま名刺切らしてますって俺に嘘ついたノアちゃん』
「そ、その節はどうも申し訳ございませんでした、っ」
『うん。それで、どうした?』
電話をしつこく鳴らして怒っているかもと思ったのに、
歴くんの口調は心なしか柔らかくなった。
「先日はチップをいただきありがとうございました。でも、あのお金……」
『…………』
「お返ししたいんです。私の労働に見合ってない額だったので」
気づけば手に汗をかいていた。
『労働に見合ってる見合ってないは俺が判断することだし、お前に意見される筋合いはない』
「っ、……もちろんあのお金があれば学費も生活費も本当に助かります。でも、だめなんです……、自分が自分の頑張りに納得いかないから」



