大沢さんはあいまいに頷きながら家全体を眺めると、またすぐこちらに向き直った。
「じゃあ僕も帰るね。ノアたん、今日もお疲れ様」
「はい、失礼します。大沢さんもお気をつけて帰ってくださいね」
大沢さんの姿が住宅街の角に消えたあとも、念の為しばらくその家の前に留まることにする。
お客様に嘘をついてしまった……。
本当はあの場でもっと強く断ればよかったんだ。
大きな声をあげて、無理やり手を振りほどいてでも……。
できなかったのは、相手を傷つけるのが怖かったから。
──ううん、本当は、私の数少ないお客様だから、ここで断って嫌われるのが怖かっただけ。
自分のお客様が減ってしまうかも、とか考えちゃって。
私……なんて自分勝手なんだろう。
お金がないと、心の余裕までなくなってしまうみたい。
その夜は、なんだか無性に泣きたくなった。



