手を取られた。
傷つけずに優しさを拒むには、どうしたらいいんだろう。
考えているうちに手を離すタイミングを失ってしまう。
ああ、早くお断りしないと取り返しがつかないことになる。
まさか本当に黒菊の離れまで送ってもらうわけにはいかないし。
焦りが募る中、ようやく思いついた苦肉の策は、繁華街を出たすぐの場所にある住宅街を利用する手だった。
「わざわざ送ってもらっておいて……なんですけど、私の家本当にすぐそこなんです。歩いて3分もかからないくらいで」
「そうなんだ! バイト先が近いと便利だよね~」
嘘をついていることに心が痛みながらも、なんとか彼をそちらに誘導する。
明かりがついていない家を選んで門前で足を止めた。
「どうも、送ってくださりありがとうございました」
「わあ~ほんとにすぐ着いちゃったね」
「はい。送ってもらう必要がない距離なので、今後はもう大丈夫ですよ」



