乗れ？
もしかして、送るから車に乗れってこと？
「っ、そんな、大丈夫です……っ」
恐れ多いのはもちろん、黒菊家を知っている人物との接触は極力避けたい。
「いーから。ちょうど通り道」
「で、も」
再度足を引きかけた……のを。
「乗れ」
短いひとことに制される。
命令することに慣れきった冷静で容赦のない声だった。
だけど不思議と、偉そうだとか横暴だとか嫌な感覚は全く与えてこない。
操られるように従って、気づけば車内。
隣には京櫻さんがいた。
嘘……なにやってるの私。
「あ……ありがとうございます、京櫻さん」
涼しげな目がこちらを向く。
「“歴くん”、じゃねえの？」
「っ、や、あれは、」
「呼んでみ。ほら、せーの」
「無、理です……っ」
「“頑張っても歴くんが限界”なら、もっと頑張ったら呼べるってことでしょ、ノアちゃん」
