「ごめんね。でも、結婚したとしても君のお姉さんじゃなくなるわけじゃないから」

「違うっ、そうじゃなくて……お姉ちゃんには、幸せになってほしいから……」



そう言いながら、目に涙を溜め始める。

てっきり、弟も一緒になって叶愛をいじめていると思っていた。



「お姉ちゃんのことはちゃんと幸せにするつもりだよ。約束する」

「お兄さんには、できないよ」



幼いながらも、冷たく鋭い声を向けられる。



「だってお姉ちゃんは、小さいときからずっと、蘭野くんのことが好きって言ってたんだもん!」



──────ドク、と、心臓が静かに跳ねた。



「京櫻家って、悪いことばっかりしてるんでしょ、極悪人がお姉ちゃんを幸せにできるわけない……っ、お前なんか死んじゃえ!」



そう吐き捨てると、勢いよく踵を返して去っていく。


背中が見えなくなったあとも、俺はしばらくその場から動けなかった。



体がゆっくりと

冷たくなっていく……──。