スラスラ、スラスラと文字を書く手が進んでいき、ノートが埋め尽くされていく。アイデアがどんどん膨らんで、ドクドクと胸が高鳴って、幸せな気持ちで満たされる。


「できた……! 完結した……!」


 了、と書けば、まるでどこかの有名作家になったみたい。ペンを置いてノートを持ち、最後の文を目でなぞる。


『最初から、ずっと』


 自分で考えたセリフのはずなのに、キュゥゥンと胸が苦しくなる。ドキドキして、ふわふわして、どうにかなりそう。


「まずい、もうこんな時間」


 慌ててノートを閉じてカバンに入れる。『小説ノート』と書く勇気はなくて、まっさらな表紙のノート。それでも、長年使い続けてきたこのノートには、わたしのたくさんのアイデアが詰まっている。

 まさに、夢ノート。

 もう一度、しっかりカバンに入れたことを確認して、チャックを閉めた。
 放課後の教室には、わたし以外誰も残っていない。もう遅い時間だから、きっとみんな帰ってしまった。わたしもはやく帰らないと。

 そう思いながらふと、グラウンドに視線をやったときだった。

 わたしの目は、まっすぐに、ある人物をとらえる。とても距離があるはずなのに、なぜだかすぐに()だとわかった。