「沙蘭、遅かったな」


「……ああ、わんこちゃんもいるんだ」



いるんだって、まるで来ないことを願っていたかのように。

アジトに遅れて登場した沙蘭 真修の第一声はそんなものだった。


クゥゥゥン………。


あ、また聞こえました。

犬丸から子犬のようなか細すぎる声。



「犬丸、」


「う、うん…」



一条くんから渡された教科書。

それは一条くんが沙蘭くんから借りていたものらしく、それを犬丸が沙蘭くんに返すという任務を受け持っていた。


それもこれも犬丸に仲直りするきっかけを与えてくれようとしている、ご主人さまの手助けだ。


心当たりがないのに避けられるって……つらい。



「さ、沙蘭氏……」


「…んー?」



冷蔵庫の中を見て、今日はどれにしようかなとケーキを選んでいる甘党さん。


ほらほら、これです。

いつもなら犬丸に顔を向けてくれるのに、現在向けられているのは背中。