「最後に会ったのはクリスマスだった。25日からエレナはフランスに里帰りすることになっていて。早朝の便だからって、朝早くに俺を起こさずに出発したらしい。でも変なんだ。そこから全く連絡が取れない」
「連絡って、電話も?」
「ああ。繋がらないしメッセージも既読にならない。初めは時差の関係とか、家族と一緒にいるからかと思っていたけど、こんなに何日も音沙汰ないなんて。もしかして、何か危険な目に遭ってるんじゃないかって心配で…」

そこまで言って、紘は言葉を止めた。
話の途中からじっとうつむいたままの美紅の様子に、何かを悟ったようだった。

「美紅、お前やっぱり何か知ってるんだな?」
「あの、そういう訳では…」
「教えてくれ!エレナは、エレナは今どこに?無事なのか?」

美紅の両肩を掴んで、なりふり構わず美紅に詰め寄る。

「兄さん、とにかく落ち着いて。エレナさんは無事だと思う」
「じゃあどうして連絡が取れない?」
「それは、その…」

まさか!と紘は目を見開く。

「あれは、夢じゃなかったのか…?」
「夢って?」
「夢の中でエレナの声が聞こえたんだ。今までありがとうって」

美紅はハッとしてから、慌てて下を向く。

「美紅、頼むから話してくれ!何を知ってるんだ?どんなことでもいい。教えてくれ!」

悲痛な叫びに耐えかねて、美紅はぽつりぽつりとエレナの言葉を話し出す。

小笠原の血筋にフランス人のハーフの血を混ぜてはいけない。
せめてクリスマスを一緒に過ごしてからお別れする、と言っていたことを。

「何を馬鹿な…」

紘は両手の拳を握りながら、必死に涙を堪えている。

「血筋なんて関係ないと、あれ程言ったのに。エレナ…」

肩を震わせて唇を噛みしめる紘に、美紅はかける言葉が見つからなかった。