ここは小笠原家が所有する、都内の1等地にある『和楽庵』(わらくあん)と名付けられた料亭。

もとは先祖代々受け継がれてきた絵画や美術品を飾る屋敷だったのだが、美紅の祖母のきよが、どなたにも気軽に観て頂きたいと言って一般開放を始めた。

やがて多くの人が訪れるようになると、ゆっくり鑑賞しながらお食事やお茶も楽しんでもらいたいと、茶室と料亭も営むようになったのだ。

木造の広い屋敷のあちこちに陶芸品や絵画を飾り、1階の茶室からは日本庭園も眺められる。

そして2階は個室を5部屋設け、四季折々の和食を味わえる料亭に改築した。

今日、美紅の父はそこでお客様と会食することになっており、美紅も『京あやめ』に立ち寄ってから祖母をここに送り届けると知ると、和菓子を多めに買ってきて欲しいと頼んできた。

(良かったわ、贈呈用の詰め合わせが買えて。これならきっとお客様にも喜ばれるはず)

美紅は手にした包みを目の高さに持ち上げ、ふふっと微笑んでから一番奥の個室に向かう。