「こういうのはね、どこか1か所に取りまとめをお願いした方がいいわよ。設計、建築、内装、庭造り、全部別々の所に頼むとチグハグになるしうまくいかないから。小笠原家が昔から懇意にしている会社があるから、そこに私から話をしておくわ」
「ありがとうございます、おばあ様」

会議で計画が承認された数日後、和楽庵の和室で、美紅は伊織と一緒に祖母のアドバイスを受けていた。

「それから客室の床の間や玄関に置く品も、私が見繕っておくわね。蔵に仕舞い込んだままのものがあるから」
「助かります。ありがとうございます」

伊織が丁寧に頭を下げる。

「いいのよ。日の目を見せてあげたいから、ちょうど良かったわ」

すると、失礼致しますという声のあと、紘がエレナを連れて現れた。

「兄さん!エレナさんも」
「お、やってるな。どうだ?うまくいってるか?」
「こんにちは。お邪魔してごめんなさいね。紘が様子を見たいって言うから…。あら!あなたが噂の?」

エレナは美紅の隣の伊織を見て目を見開く。

「初めまして。本堂 伊織と申します」
「やっぱり!まあ、イケメンじゃない!うわー、テンション上がっちゃう。美紅ちゃん、良かったわね」
「え、な、何が?」

戸惑いつつ、美紅は伊織に、兄の恋人のエレナさんですと紹介する。

「初めまして!エレナです。私の可愛い妹の美紅ちゃんのこと、どうぞよろしくね」

エレナは伊織に近づき、ギュッと手を握りながら微笑む。

「エレナ」

すぐさま紘が呼び寄せ、エレナの肩をグッと抱いて隣に座らせる。

相変わらずだわ、と美紅は苦笑いした。

「へえ、素敵ね、京都の隠れ家の宿なんて。外国人観光客にもウケるわよ。完成したら私のブログで、フランス語と英語で紹介するわ。これでも結構フォロワー多いの」
「ありがとうございます、エレナさん。外国の方にも是非日本の伝統を感じて頂けたらと思います。胸を張ってご紹介出来るように、私も精いっぱい心を尽くして参ります」

昼食を食べなら、皆で楽しく話をする。

「美紅。建設地のことだけど、小笠原が提供する敷地につては、改めて本堂さんと話をさせてくれ」
「かしこまりました」

紘の言葉に、伊織も箸を置いて改めて頭を下げた。

「ご協力ありがとうございます。どうぞよろしくお願い致します」
「こちらこそ。美紅が生き生きと楽しそうにしているのを見て、私も安心しました。成功を心よりお祈りしております」
「はい、必ず。お約束致します」

伊織は気を引き締めて紘に頷いてみせた。