紅色に染まる頃

「本堂様、着きました」

夕方に京都に入り、市内を走ってから美紅は東山エリアで車を停めた。

「ここは?」

車を降りた伊織は、辺りを林に囲まれた古い屋敷を見て美紅に尋ねる。

「小笠原家が所有する別荘です。いつもはお手伝いさんが住んでいるのですけど、時々わたくしもここに泊まりに来ます」

歩き始めた美紅の手から、伊織はスッと荷物を受け取る。

「まあ。ありがとうございます」
「このくらい。君こそずっと運転して疲れただろう?」
「いいえ。楽しかったです、ふふ」

笑顔で伊織を見上げてから、美紅は屋敷の引き戸をカラカラと開けた。

「こんばんは。美紅です」

すると衣擦れの音と共に、着物姿の50代くらいの女性が現れた。

「まあ、美紅様。ようこそお越しくださいました。お電話を頂いてから、首を長くしてお待ちしておりました」
「春代さん、お久しぶりです。お元気でいらしたかしら?」
「ええ、お陰様で」
「良かったわ。春代さん、こちらは本堂グループのご長男、本堂 伊織様です」

美紅に紹介されて伊織は挨拶する。

「初めまして、本堂と申します。突然お邪魔しまして申し訳ありません」
「まあまあ、なんて麗しいお方なのかしら。初めまして、使用人の春代でございます。さ、お二人とも長旅でお疲れでしょう。どうぞ上がってくださいませ」
「ありがとう」

隅々まで綺麗に手入れが行き届いた廊下を進み、奥の和室に通される。
床の間には年代物の掛け軸と壺、そして窓の外には見事な日本庭園が広がっていた。

「本堂様、どうぞこのお部屋をお使いくださいませ。お風呂もいつでもお入り頂けます」

春代の言葉に、伊織はありがとうと頭を下げる。

「美紅様、お食事は広間にご用意致しましょうか?」
「ええ、そうね。先にお風呂を頂いてもいいかしら?」
「もちろんですわ。本堂様はいかがでしょう」
「そうですね、では私もそうします」
「かしこまりました。ご案内致しますね」

伊織は露天風呂でゆっくりと身体をほぐした後、用意された浴衣を着て広間に向かった。