「こんばんはー。あら、美紅ちゃん!」
「エレナさん、こんばんは。お身体いかがですか?」
「もうすっかり元気よ。先日はごめんなさいね、急に代役頼んじゃって」

いいえ、と美紅はにっこり笑いかける。

エレナがカウンターの中に入ると、紘は肩を抱き寄せて頬にキスをした。

(うわっ、相変わらずラブラブだわ)

外交官の父とフランス人の母を持つエレナは、綺麗な瞳と透き通るように白い肌、そしてモデルのようなスタイルの良さで、美紅はいつ見ても惚れ惚れしてしまう。

兄の紘とつき合ってもう5年。
いずれ二人が結婚することは聞くまでもなく明らかだった。

「エレナ、本堂グループって知ってる?」

エレナが美紅の隣に座ると、ふいに紘が尋ねた。

「もちろん。知らない人なんていないでしょう?」
「この間その本堂グループの御曹司がここに来てくれてさ。今日も美紅と会ってたんだよ」

え?!とエレナは美紅を振り返る。

「美紅ちゃん、その御曹司とおつき合いしてるの?」
「まさかそんな。兄さんったら、変なふうに言わないで」

否定する美紅に、エレナはグッと顔を近づけた。

「でも美紅ちゃん。せっかくだからおつき合いしてみたら?」
「そうだぞ、美紅。お前、このままだと一生独り身だぞ?」

二人は真顔で美紅に詰め寄る。

「別に独り身でも構いません。どなたかとおつき合いするなんて、なんだか肩が凝りそうだし」
「は?肩凝り?お前なあ…」

紘が呆れたような声で言うと、エレナも思わず苦笑いする。

「美紅ちゃん、そんなに構えないで。恋人っていいわよ?誰かに愛されるって、幸せを感じるもの」

そう言って微笑みながら紘と見つめ合うエレナに、美紅の方が顔を赤らめる。

「エレナさんは女性らしいもの。私は恋愛に向いてないから」
「そんなことないわよ。それに美紅ちゃんは、恋をしたらウンと可愛らしくなる気がするのよね、私」

すると横から紘が、それはどうだか?と両手を広げてみせた。

「もう、紘。余計なこと言わないで。美紅ちゃん、本当に私はそう思ってるの。ね?だから、チャンスがあれば素敵な恋愛してみてね」
「はい、チャンスがあれば。それよりエレナさん。そろそろお時間じゃない?」
「あ、大変!着替えてくるわね」

時計を見て、エレナは慌てて控え室に向かった。