紅色に染まる頃

「あら?もしかして、本堂様でいらっしゃいますか?」

走り出したタクシーの中で、美紅がまじまじと伊織を見ながら尋ねる。

「ああ、そうだ。ということは、君は……?」
「小笠原 美紅でございます」

やはりそうか、と伊織はため息をつく。

(怖いわ。女性ってこんなに変わるものなのか?一体、彼女の本性って?)

険しい顔で考え込んでいると、美紅が声をかけてくる。

「あの、お久しぶりでございます。先月はお世話になりました。本堂様、今夜はお一人ですか?」
「ああ、うん。先程までバーにいたんだ」
「バー、ですか?」
「そう。アクアブルーという名前の」

えっ!と美紅が目を見張る。

「本堂様、兄のバーにいらしたのですか?」

は?!と、今度は伊織が目を見張る。

「あのバー、君のお兄さんの?」
「ええ。バーテンダーをしていたのが兄です」
「えっ、恋人じゃなかったのか?」
「恋人?兄の恋人は、あのバーでピアニストをしておりますが……」
「じゃあ、さっきのピアニストは……。ああ、ごめん。もう頭の中がごちゃごちゃだ」

伊織は思わず目頭を押さえる。
ただでさえ、美紅の本性が分からず混乱しているのに、状況までもがややこしい。

するとタクシーがゆっくりと停車し、ハザードを点けた運転手が振り返った。