紅色に染まる頃

「うーん、やっぱり人違いか?」

バーをあとにしてエレベーターに乗り込むと、伊織は一人呟く。

タイトな赤いドレスを着ていた彼女は大人っぽくセクシーで、振り袖姿の令嬢の面影は全くなかった。

(でもなあ、名前は同じだし。喋り方も違うけど声は似ていたし)

ぶつぶつ考えながら1階でエレベーターを降りる。

外に出てタクシーを拾おうと手を挙げると、ふいに酒に酔った男の声が聞こえてきた。

「いいじゃねえかよ、ちょっとくらい。な?1杯つき合ってくれよ」
「お断り致します」

酔っぱらいに女性が絡まれているのか、と顔を向けた伊織は驚いた。

酒癖の悪そうな男に言い寄られているのは、先程の女性だった。

(彼女なのか、そうでないのか?いや、どちらにせよ助けなければ)

伊織が近づいた時、酔っぱらいの男が女性の肩を強引に抱き寄せようとした。

と次の瞬間、女性はキッと目つきを変えると、男の襟元と腕をグッと掴んで腰を落とした。

(やっぱり彼女だ!)

柔道の投技をかけようとする美紅に慌てて駆け寄った伊織は、美紅から男をグイッと引き離す。

「ちょっと、何をなさるの?」
「いいから、ほら!乗って」

目の前に止まったタクシーに強引に押し込み、伊織は運転手に、取り敢えず自分のマンションの住所を伝えた。