紅色に染まる頃

やがて曲が終わると、大きな拍手が起こる。

ピアニストは微笑んで会釈してから、また鍵盤に両手を載せた。

次に聴こえてきたのは、ゴージャスにアレンジされたHappy Birthdayの曲。

ピアノから程近いソファ席に座っていた女性が、驚いたように口元に手をやって隣の男性を見上げる。

スタッフがロウソクを立てたデザートプレートを二人の前に置くと、女性は嬉しそうに笑顔を弾けさせた。

ピアニストがたっぷりと余韻を残して弾き終え、にこやかに女性に拍手を送る。

女性が隣の恋人に照れたようにはにかんだ笑みを見せてから、ふうっとロウソクを吹き消した次の瞬間、また新たな曲が聴こえてきた。

有名な歌手が歌うバラードで、結婚式などでもよく使われるその一曲は、どうやらそのカップルの思い出の曲らしい。

女性が驚いて顔を上げた時、男性がポケットから取り出した小さなリングケースを開けて彼女に差し出した。

(おっ、プロポーズか)

周りの人達も視線を逸らしつつ、気を利かせて会話を控える。

ピアニストが様子をうかがいながら音量を下げて弾く中、男性の言葉に女性が感極まったように涙を流して頷いた。

男性が優しく彼女の左手を取って指輪をはめると、祝福するようにピアノの音が華やかに響き渡る。

バーにいる皆も笑顔で拍手を送った。