(へえ、なるほど。なかなか雰囲気がいいな)

Bar. Aqua Blue と書かれたドアを開けると、控えめな間接照明とスタイリッシュな空間が広がっていた。

中央には色とりどりの魚が泳ぐ大きな水槽があり、その周りを囲むようにテーブル席が並ぶ。

そして何より目に飛び込んでくるのは、綺麗な夜景だ。

ビルの最上階の一角に位置する為、正面と右側の2面に大きな窓が広がっており、ソファ席に並んで座るカップル達が肩を寄せ合って眺めていた。

「いらっしゃいませ。お一人ですか?」

バーテンダーに声をかけられ、伊織は頷く。

「カウンターは空いてますか?」
「はい。お好きな席へどうぞ」

にこやかに促され、伊織は一番端の席に腰を落ち着けた。

カウンターの内側には、ずらりと色々な銘柄のお酒が並んでいる。

「えっと…、ジンリッキーをお願いします」
「かしこまりました」

うやうやしく頭を下げたバーテンダーが、手際良く準備する。

伊織は改めて店内を見渡した。

ゆったりと席を配置しており、ほぼ満席なのに騒がしくはない。

よく見ると、水槽のあるエリアはカウンターのフロアから一段下がっており、窓際のソファ席はそこから更に一段下にある。

バー全体が3段のフロアに分かれているおかげで、カウンター席からも水槽と夜景が眺められた。

そして壁際にはグランドピアノが置かれている。

洗練されて落ち着いた雰囲気のこのバーを、伊織はすっかり気に入っていた。