紅色に染まる頃

「美紅、今日は俺が運転するから」

車のドアロックを解除しながら、伊織が振り返って言う。

「はい。よろしくお願いします」

美紅は伊織が開けてくれた助手席のドアから車に乗った。

「えっと、伊織さん。どちらへ?」
「夕食まだだろう?披露宴をする予定の本堂グループのホテルで食べない?」
「あ、はい」

伊織は都内の湾岸地区にある、海に面したホテルに車を走らせた。

バレーパーキングに車を預けると、伊織は美紅に手を差し伸べてから歩き出す。

「結納で疲れてない?」
「ええ、大丈夫です」
「そう、良かった」

シックな色合いのスーツに身を包んだ紳士的な伊織の振る舞いに、美紅はなぜだかドキドキする。

自分もセミフォーマルなワンピースを着て来て良かったと思いながら、伊織のエスコートで最上階のフレンチレストランに入った。

「わあ、夜景がとっても綺麗」
「そうだね。考えてみたら、美紅とこんなふうに都内でディナーなんて初めてかも?」
「確かに、そうですね」

照明を絞ったフロアでキャンドルの灯りが揺れる中、二人は向かい合って座った。

「俺はアルコール飲まないけど、美紅は何か飲む?」
「私もノンアルコールカクテルにします」

二人でささやかに、無事結納が済んだことを祝う。

「では、美紅が正式に俺のフィアンセになってくれたことに乾杯」

ふふっと笑って美紅もグラスを掲げた。

「美紅って、本当に綺麗だよね」

ふいに言われて、美紅は思わずゴホッと咳き込む。

「ど、どうして急に、そんな……」
「いや、前から思ってたんだ。初めて会った時は振り袖姿で、和服美人って感じだった。次はタイトなドレスでピアノを弾いていて、大人の魅力に溢れてて。かと思えばスーツをパリッとスタイル良く着こなしたり、ラフなカットソーとジーンズだったり。会う度に色んな一面を見せてくれる。美紅は本当に魅力的な女性だよ」

伊織の思わぬ言葉に、美紅はドギマギして下を向く。

「あの、結婚したらもっとおしとやかに振る舞うように気をつけます」
「どうして?俺はそのままの美紅がいい」
「ですが、そのままだと何をしでかすか自分でも分からなくて……」
「美紅は美紅のままが一番いい。俺はどんな美紅も全部好きだ」

真っ直ぐに見つめられて、美紅は何も考えられなくなる。

「結婚式も楽しみだな。美紅の白無垢姿と、披露宴のウェディングドレスも。そうだ、あとで少しドレスだけでも見せてもらおうか」
「え?あの……そんな急に?」

伊織が料理を運んできたスタッフに声をかけると、連絡しておきます、とにこやかに頷いてくれた。

更に、美味しいフルコースの最後にデザートのアシェット・デセールをサーブしながら、さり気なく「ご婚約、誠におめでとうございます」と祝福してくれる。

「ありがとうございます」

スタッフの気遣いに感謝しながら、二人は見た目も美しいデザートのプレートを楽しんだ。