紅色に染まる頃

次の瞬間、ギュッと美紅が両手で伊織の胸元を掴んだ。
伊織は途端に真顔に戻る。

「美紅、あの……。念のため言っておくけど、柔道の寝技じゃないからね、これ」

美紅は完全に目が覚めたように、ハッと目を見開いて、慌てて両手を離した。

「そ、そうですよね、すみません。私、今まで畳の上でしか殿方と一緒に寝たことなくて……」
「美紅?!な、なんてことを言うんだ」

殿方と一緒に寝た……
伊織の頭の中で、切り取られたそのセリフだけがリピートされる。

「あの、伊織さん?」

心配そうに美紅が身体を起こして顔を覗き込む。

「どうかしましたか?」

伊織はふっと笑って美紅の頭に手を置いた。

「大丈夫だよ、ごめん。俺、情けないほど余裕がないな」

どういう意味なのかと首を傾げる美紅に、伊織は優しく微笑みかける。

「美紅、俺は君を大切にしたい。少しずつ君と時間を重ねて、心を通わせていきたい。そしてきちんと時期が来るまで、君の清純さを守りたい。いいかな?」

美紅はパチパチと瞬きをしてから、コクリと頷く。
その様子に伊織は苦笑いした。

「美紅……。さては、いまいちよく分かってないだろう?」
「あっ、いえ、あの。伊織さんが私を大事にしてくださるのはよく分かりました」
「なるほど。じゃあ、まあいいか。いずれその時が来たら手加減しないから、覚悟しておいてね」

ええ?!と美紅が驚いて目を大きくさせる。
どうやら決闘でもするのかと勘違いしているのだろう。

伊織はクスッと笑ってから、美紅の頭にポンと手をやって立ち上がる。

「美紅、ここじゃなくて和室で寝ないか?窓からの景色がよく見えるよ」
「わあ、素敵!そうしましょう」

二人仲良く布団を並べて、月明かりが射し込む部屋から緑の木々を眺める。

「不思議な気持ち。まるで森の中で眠っているみたい」
「眠れる森の美女だな。じゃあ、朝になったらキスして起こさないと」

そう言われて美紅は顔を真っ赤にする。

「美紅、その調子だと先が持たないよ」
「先って?」
「んー、お子ちゃま美紅にはまだ教えない」
「え、なあに?それ」
「いいから。ほら、寝よう」

すると美紅は、伊織の方に顔を向けてじっと見つめてきた。

「ん?どうしたの?」
「伊織さん、手、繋いで?」

美紅は布団からそっと右手を出して、恥ずかしそうに呟く。
伊織はふっと笑みをもらしてから、柔らかいその手を握った。
伝わってくる温かさに幸せが込み上げる。

「おやすみ、美紅」
「おやすみなさい、伊織さん」

幸せそうに微笑むと、今度こそ美紅は眠りに落ちていった。