紅色に染まる頃

しばらく車を走らせていた伊織は、ふと美紅の視線を感じて助手席に目をやった。

パチッと目が合い、美紅は慌てて視線を逸らしてうつむく。

「美紅?どうかした?」
「いえ、あの……」

もう一度横目で様子をうかがうと、美紅は頬を赤く染めてじっと固まっている。

「どうしたの?急に」
「あの、えっと。かっこいいなと思って」
「ん?車が?」
「いえ、本堂様がです。運転されるのを久しぶりに拝見したので」
「……は?えっと」

色々突っ込みたくて、伊織は目をしばたたかせる。

「あの、美紅?」
「はい」
「俺が運転するのなんて普通だよ。君の方がよっぽどかっこいい。それから、いい加減その話し方はやめて欲しいんだけど」
「えっと、どの話し方でしょうか?」
「まさにそれ。もっと普通に話して。あと『本堂様』はもう禁句だからね」

え……、と美紅は困り果てた顔になる。

「あの、では。本堂さんでよろしいですか?」
「は?駄目に決まってるでしょ。どうして名字なの?」
「うっ、では、あの。い……伊織様でよろしいでしょうか?」

勇気を出して言ってみたが、再びあっさり否定される。

「駄目。そう呼んでいいのはお菊だけなんだ」
「ええ?お菊さんの特権なのですね?」
「そう」
「では、なんとお呼びすれば……」
「なんでもいいよ。奥さんになる美紅の特権」
「それはつまり……。殿、とか?」

伊織は、ゴホッと飲みかけのコーヒーを吹きそうになった。

「美紅、時代は今、令和なんだ。頼むから現代に合わせてくれ」
「は、はい。では……伊織……さん」

消え入りそうな程小さな声で美紅が呟くと、うーん、と伊織は首をひねる。

「それが限界?」
「はい!限界です!」

急に元気良く頷く美紅に、伊織は、はは!と笑い出す。

「じゃあ、それでいいよ。俺の可愛い美紅」

美紅は一気に顔を赤らめ、慌ててまたうつむいた。