父がそそくさと部屋をあとにすると、美紅は小さくため息をついてから伊織に向き直って頭を下げた。
「お見苦しいところをお見せ致しまして申し訳ございません」
「いえ、時代劇を見ているようでなかなか楽しかったです」
笑いを含んだ口調に、美紅は思わず顔を上げる。
伊織は、くくっと思い出したように頬を緩めた。
「私のことを殿方とおっしゃった時には、笑いを堪えるのに必死でしたが」
「はあ」
何がそんなにおかしいのかと、美紅は首を傾げる。
「それより、お食事を進めて頂いても構いませんか?こちらの美味しい料理を楽しみにしていましたが、まだ食前酒しか頂いておりません」
「はっ、それは失礼致しました。ただ今お持ち致します」
するとタイミング良く、顔なじみの女将が失礼致しますと声をかけてきた。
「お食事を運んで参りました。旦那様がお帰りとのことで、すぐに美紅様の分をご用意致します。美紅様、お酒は召し上がりますか?」
「いいえ、温かいお茶にします」
「かしこまりました」
女将は父が飲んでいたグラスを下げ、テーブルセッティングを整えると、伊織と美紅の前に季節のご膳を並べる。
栗やさつまいもや松茸など、秋の味覚をふんだんに使った見た目も美しい品を、伊織はじっくりと眺めながら味わう。
「素材の風味がしっかり感じられる味付けで、実に美味しい」
「ありがとうございます。お若い方には、味が薄いと感じられませんでしょうか?」
「いや、私は濃い味付けは好きではないので。本当に美味しい和食とはこういう品のことを言うのでしょうね」
「そう言って頂けますと幸いに存じます」
最後の甘味まで満足そうに味わった後、お茶を飲みながらふと伊織が顔を上げた。
「失礼でなければ、あなたが先程渡して下さった『京あやめ』の和菓子も、今頂いて構いませんか?」
「え?はい、もちろん」
美紅は女将を呼んで和菓子盆を用意してもらうと、包みを開けて伊織に和菓子を選んでもらう。
「どちらがよろしいですか?」
「これはなんとも美しいな」
ひと口サイズの詰め合わせを、伊織は身を乗り出して眺め始めた。
「こちらの練切は、秋桜とおとめ菊。この錦玉羹は満月に見立てた栗とうさぎを閉じてあります」
「本当だ。透き通る黄金色で、まるで芸術品だな。秋らしくていい」
どれにしようか散々迷ったあと、結局伊織は美紅が薦めた3つを選んだ。
女将が綺麗に盆に盛りつけて、どうぞと伊織の前に置く。
「ありがたく頂くよ」
「はい。どうぞお召し上がりください」
美紅は美しい所作で和菓子を味わう伊織を、それとなく見守る。
伊織はゆっくりと噛みしめてから、感心したように頷いてみせた。
「こんなに深い味わいの和菓子は初めてだよ。甘さやなめらかさ、しっとりした舌触り、全てが絶妙だ。少しのバランスの狂いもない」
「おっしゃる通りですわ。わたくしもここの和菓子は、職人の方にいつも敬意を払いつつ頂いています」
「そうだな、まさに職人技。こだわりや和菓子への愛情を感じるよ」
3つを綺麗に食べ終えると、伊織は丁寧にご馳走様でしたと頭を下げた。
「まだたくさんありますので、ご自宅でもご両親と召し上がってくださいね」
「ああ、ありがとう。二人ともきっと大喜びするよ」
美紅はふふっと伊織と微笑み合う。
「お見苦しいところをお見せ致しまして申し訳ございません」
「いえ、時代劇を見ているようでなかなか楽しかったです」
笑いを含んだ口調に、美紅は思わず顔を上げる。
伊織は、くくっと思い出したように頬を緩めた。
「私のことを殿方とおっしゃった時には、笑いを堪えるのに必死でしたが」
「はあ」
何がそんなにおかしいのかと、美紅は首を傾げる。
「それより、お食事を進めて頂いても構いませんか?こちらの美味しい料理を楽しみにしていましたが、まだ食前酒しか頂いておりません」
「はっ、それは失礼致しました。ただ今お持ち致します」
するとタイミング良く、顔なじみの女将が失礼致しますと声をかけてきた。
「お食事を運んで参りました。旦那様がお帰りとのことで、すぐに美紅様の分をご用意致します。美紅様、お酒は召し上がりますか?」
「いいえ、温かいお茶にします」
「かしこまりました」
女将は父が飲んでいたグラスを下げ、テーブルセッティングを整えると、伊織と美紅の前に季節のご膳を並べる。
栗やさつまいもや松茸など、秋の味覚をふんだんに使った見た目も美しい品を、伊織はじっくりと眺めながら味わう。
「素材の風味がしっかり感じられる味付けで、実に美味しい」
「ありがとうございます。お若い方には、味が薄いと感じられませんでしょうか?」
「いや、私は濃い味付けは好きではないので。本当に美味しい和食とはこういう品のことを言うのでしょうね」
「そう言って頂けますと幸いに存じます」
最後の甘味まで満足そうに味わった後、お茶を飲みながらふと伊織が顔を上げた。
「失礼でなければ、あなたが先程渡して下さった『京あやめ』の和菓子も、今頂いて構いませんか?」
「え?はい、もちろん」
美紅は女将を呼んで和菓子盆を用意してもらうと、包みを開けて伊織に和菓子を選んでもらう。
「どちらがよろしいですか?」
「これはなんとも美しいな」
ひと口サイズの詰め合わせを、伊織は身を乗り出して眺め始めた。
「こちらの練切は、秋桜とおとめ菊。この錦玉羹は満月に見立てた栗とうさぎを閉じてあります」
「本当だ。透き通る黄金色で、まるで芸術品だな。秋らしくていい」
どれにしようか散々迷ったあと、結局伊織は美紅が薦めた3つを選んだ。
女将が綺麗に盆に盛りつけて、どうぞと伊織の前に置く。
「ありがたく頂くよ」
「はい。どうぞお召し上がりください」
美紅は美しい所作で和菓子を味わう伊織を、それとなく見守る。
伊織はゆっくりと噛みしめてから、感心したように頷いてみせた。
「こんなに深い味わいの和菓子は初めてだよ。甘さやなめらかさ、しっとりした舌触り、全てが絶妙だ。少しのバランスの狂いもない」
「おっしゃる通りですわ。わたくしもここの和菓子は、職人の方にいつも敬意を払いつつ頂いています」
「そうだな、まさに職人技。こだわりや和菓子への愛情を感じるよ」
3つを綺麗に食べ終えると、伊織は丁寧にご馳走様でしたと頭を下げた。
「まだたくさんありますので、ご自宅でもご両親と召し上がってくださいね」
「ああ、ありがとう。二人ともきっと大喜びするよ」
美紅はふふっと伊織と微笑み合う。



