「王女様をお部屋にお運びしておきましょうか?」
「あとで適当にやっておくから、構わなくていい」
「承知いたしました。それでは、おやすみなさいませ」

 クリムトが去っていったあと、ライズはおもむろに席を立つと、フランのいる長ソファに向かい、傍らに腰を下ろした。

「…………」

 すぅすぅと上下する温かい体に、そっと手を伸ばす。どうにも気にかかって仕方がなく、構わずにはいられないのだ。
 背に触れた瞬間、三角の耳がぴくりと動いたが、それが目を覚ます気配はなかった。

(この感触、どうにも癖になる……)

 湧き上がる多幸感とでもいうのだろうか。
 鬼だ悪魔だと恐れられる自分が、このようなことを思い、こんなことをしていると知れたら、家臣たちは目をむいて卒倒するだろう。「可愛い」などとは口が裂けても言えないが、目の前の存在に強く興味を引かれていることは確かだ。

 とにかく今夜はもう、仕事じまいにしようと心に決める。
 熱源の増えた静かな夜は、いつもより時の流れが緩やかで、温度を上げている気がした。