厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています

(なんなんだ、この生き物は……。反則じゃないのか……)

 自分でもよくわからないが、心を鷲掴みにされた感は否めない。こんな気持ちになったのは生まれて初めてのことで、実は内面の大部分で戸惑っている。
 そのまま吸い寄せられるように目を奪われていると、

「陛下?」

 クリムトに声をかけられ、はたと意識を引き戻した。
 平常心でいる振りが崩れていたかもしれない。

 問題の本筋は、シャムール王家に生まれた先祖返り、フラン。そして怪しい動きを見せていた西の大国だ。そしてこの両者は、きっと無関係ではない。
 そもそも、世界でも有数の巨大国であるウェスタニアが、ただの珍しい生き物を手に入れるためだけに動くとは考えにくい。背景にはもっと大きな秘密があるのかもしれない。
 仕事の顔に戻ったライズは、命令を待つ部下に指示をした。

「獣人についての資料を集め、古文書の解読を早急に進めてくれ。それから――シャムールの王女、フランの生い立ちを探れ」
「かしこまりました。フラン王女は、このままおそばに留め置かれるのですか?」
「ああ……。監視するには、そのほうがいいだろう」

 離宮の令嬢たちには手ひどく扱われているようだし……などと口には出さずに考えていると、表情を緩ませた側近が、含みを持たせた声で言う。

「陛下は昔から、小動物がお好きでしたね。それから、意外と口下手でいらっしゃる」
「……うるさい。もういいから、おまえも下がって休め」