そんな部下を相談相手に、ライズは特等席の肘かけに頬杖をつき、考えの整理を始めた。

「肉体を鍛えるしかない我々人間からすれば、特異な力を持つ存在は、喉から手が出るほど欲しいものだ。それをみすみす差し出すとは……。シャムールでは能力を知られていなかったのか?」
「むしろ厄介だと思われていたのではないでしょうか。珍しい存在など、小国では国を攻められる理由にしかなりません」

 たしかに、希少なものなら手に入れたいと思うのが、強者の性だ。ウェスタニアが目をつけたのも、先祖返りの出現を聞きつけてのことかもしれない。

 絶滅に近いといわれ、自然の出生は見込めないといわれている獣人。これまで耳にしたことはあっても目にする機会はなかったが、貢ぎ物として差し出された王女が、まさかその能力の持ち主だったとは。

 話題の的となっている小さな生き物に、ついっと視線を流す。
 引き結んでいた己の唇が、ふいに緩んだ。

(やはり私は、運がいい――)

 機運すらも掴み取る、強靭な精神と天賦の引き。それこそが王の資質だと思っている。

 けれども、この王女との引き合わせは、偶然では片づけられないなにかを感じる気がするのだが、考えすぎだろうか。
 見つめれば、腕に抱えていたときの感触がじわりと思い出されてきた。ほんのりと温かく柔らかい体がおとなしくこの腕に収まって、しっくりくるというか、なんというか――。