あっと思ったときには、階段から足を踏みはずしていた。
 視界に映るのは令嬢たちの酷薄な笑み。このまま転落すると覚悟した、そのとき。

 逞しい腕が背中に回され、大きな胸に抱きとめられた。
 不安定な姿勢のまま、なにが起きたのかと首を回して見ると、皇帝ライズが立っている。

「陛下……? ど、どうしてこちらに……?」

 ライズはフランの体を支えながら、険しい顔で言った。

「何事だ? 騒々しい」

 彼がじろりと階上に向けて視線を投げたが、そのときにはすでに令嬢たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていた。新入りを寄ってたかっていじめていたと、悪いイメージがつくことを恐れたのだろう。

 引き際の早さに呆気に取られつつ、いつまでも皇帝に寄りかかっているわけにはいかないと急いで姿勢を立て直す。するとそのまま二階の安全な場所までエスコートされたので、素直に従った。