厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています

 とはいえ、相手は誰よりも高貴な身の上だ。ちっぽけな獣の一匹や二匹、記憶の外に追いやられているかもしれない。
 考えていると切なくなってくる。ベッド横にあるチェストの引き出しを開け、大事にしまっておいたハンカチを取り出した。

 彼が結んでくれた、皇室の紋章が入ったポケットチーフ。光沢があり上品な色合いのそれを眺めていたら、一部に染みができているのを見つけて、ハッと息をのんだ。
 おそらくは庭を通って戻ってくるときに泥がついてしまい、今になって汚れが浮き上がってきたのだろう。

「大変! 洗ってきれいにしておかないと……」

 かけがえのない宝物となっているハンカチを手に、慌てて部屋を飛び出した。


 居室前の廊下を進み、吹き抜けのホールへとやってくる。
 使用人の作業場で洗剤を借りるため、一階に降りようと階段を下りかけたところで、横から呼び止められた。

「あら、こんな時間にどこへ行くつもり?」