来たときと同じく庭の木を伝って窓から入り、花離宮にある自分の部屋へと帰着する。それから間もなく変身が解けて、人間の姿を取り戻した。
 ほどよい疲れと、満腹感に包まれて……。
 その日の夜は、満ち足りた気持ちで眠りにつくことができた。

 あれから数日が経ち――。
 劇的な変化はなくとも、どうにか無難に過ごすことができている。今日もまた、代わり映えのしない夕礼に参列して、部屋に戻ってきたところだ。
 このあとは、部屋つきの風呂で湯あみをすることくらいしか、やることがない。退屈で、本でも借りられないものかと思ったが、贅沢を言える立場ではなかった。

 窓辺の椅子に身を預け、宵闇に沈んだ外の景色を見つめながら、物思いにふける。
 ぼんやりしていると、浮かぶのはあの日の出来事。
 城の執務室で、皇帝と過ごした時間。あのときに感じたこそばゆい気持ちを、今も忘れられずにいる。

(……現実だったのかしら、あれは……)