先日、ライズにお茶の席に呼ばれたときは、ほとんど喉を通らなかったけれど……本来は、食べ物は無駄にしない主義。特に甘い物は大好きだから飛びついてしまう。

 そんなこんなで十分なおこぼれにあずかったところで、顔を上げて満足したことを目で伝えると、意を汲んだライズが腕を解いて、絨毯の上にそっと下ろしてくれた。
 大きな手の平が、頭の上にぽんと置かれる。

「ちょっと待て。食いしん坊なおまえに、特別な勲章をやろう」

 ライズは上衣の胸ポケットからハンカチを取り出すと、フランの首にリボンのように巻きつけて結んだ。
 高価なシルク素材の赤い布地に、皇室の紋章が刺繍された特別品。これがあれば、最高位の貴人からお墨つきを得ていると、誰が見てもすぐにわかることだろう。

 別れの挨拶代わりに、またゴシゴシと頭を撫でられて、開けてもらった扉の隙間から外に出た。

(……なにかしら……。すごく、心が温かい……)

 夢でも見ているかのように、ふわふわした気持ちで歩きだす。
 どうしようもなく気になってもう一度振り返ったときには、扉はもう元どおり、ぴたりと閉じられていた。