熱弁するサリーの声は、まるで耳に入らなくなってしまった。
 こんないかがわしい服を着て人前に出るようなことがあれば、恥ずかしくて死んでしまう。意味が分からないし、自分には絶対に無理だ。

 ヴォルカノ帝国へ捧げられる貢ぎ物の役目を自分が引き受けると母に報告したとき、餞別として言われた言葉が脳裏によみがえった。

『いいこと? フラン。もしも皇帝の寝所に呼ばれることがあれば、ただ黙って従うのよ。逆らってはダメ、どんなにひどいことをされてもね……。あなたが自分で選んだことなのだから、できるわよね?』

 言い聞かせるように諭してきた母は、なにを思っていたのだろう。

 フランには時折、母の考えがよくわからないことがあった。わざと怖がらせるようなことを言って心の準備をさせるつもりだったのかもしれないが、まるでそうなってほしいと望んでいるかのようにも見えた。

(そんなわけ……ないわよね……)

 みるみる曇ってしまったフランの表情を見て、サリーは慌ててネグリジェを掴むと、見えないところに押し込めた。

「フラン様は、望んでここへ来られたわけではないのですよね……。申し訳ありませんでした」
「あ、いいえ、ありがとう。でも、そうね。こういうのは好みではないから……着るものはなるべくシンプルなものがいいわ」
「かしこまりました。それでは早速、午後にお召しになるドレスを選びましょうか」

 ゆっくりと疲れを取る暇もなく、準備へと入った。