気持ちはありがたいのだが、朝から呼び出されて拘束時間はかれこれ四時間以上にも及ぶ。着つけに時間のかかるウェディングドレスに何十回と袖を通させられて、足は棒のように痛いし全身がくたくただ。
 頭にふらつきを覚えたちょうどその頃、扉がノックされ、クリムトが姿を現した。
 彼はフランにも丁寧に会釈してから皇太后の近くに歩み寄ると、直属の上司からの先触れを伝える。

「皇太后様、皇帝陛下がこちらへ顔を出したいと」
「あら、こちらの様子が気になるようね」

 どうやらライズがこちらに来てくれるらしい。
 天の助けだと思っていると、予想していたよりも早く、乱暴に扉が開かれた。

「母上……! またフランを独占して」

 室内に踏み込んできたライズは、着飾ったフランの姿をひと目見て、時が止まったかのように静止した。大きく目を見開いて、穴が開くほどこちらを見つめている。

「ライズ様?」

 なにか変なところがあるのだろうかと慌てたが、次の瞬間、彼はふわりと破顔し、嬉しそうに目を細めた。

「とてもきれいだ……式の日が楽しみだよ」

 気持ちがこもっているのがすごく伝わってきて、頬が熱くなった。