――宴の夜は、まだまだ先が長い。
 いつもよりヒールの高い靴を履いていたフランは、今のうちに少しだけ休憩させてもらうことにして、外の風に当たろうと大ホールに隣接する庭に出た。
 夜の庭園はしっとりとして、ライトアップされた木々が幻想的に見える。
 噴水の縁に腰かけて、サラサラと流れる水音と会場から漏れてくる音楽を聞きながら、幸福の余韻を噛みしめた。

 わずかな光すらも拾って輝く、ライズの色の石がはめ込まれた指輪を確認しては、これは夢ではないのだと胸を撫で下ろす。
 喜びを抑えきれず、世界でひとつしかない婚約指輪にうっとりと目を奪われていると、近くで草むらを踏みしめる音がした。
 気配のするほうに顔を向けると、建物の明かりを背にして、母のベラが立っている。

「フラン……探したわよ」
「お母様」

 笑顔で少し話をしようと誘われて、フランは気持ちが高揚するのを感じた。
 長らく合わないうちに気持ちがすれ違ってしまったが、こうしてフランは帝国の皇妃に選ばれることになったのだ。きっと母も喜んでくれているに違いない。

「本当によかったわね、フラン。……実は、護衛としてアルベールも連れてきているのよ。会場には入れないから外にいるのだけど、ひと目会いたいでしょう?」
「アルベールが!? まぁ、懐かしいわ……!」
「それじゃあ、案内するわね」

 にっこりと微笑んだベラのあとを、疑いもせずについていった。