「そ、そうなの……?」
「すぐにおわかりになると思います。以前、外国から来られていたお姫様が、本国出身の力のあるご令嬢様から目をつけられ、ひどくいじめられて、この池に身を投げたという噂もあるんですよ……」

 睡蓮が浮かぶ池にかかる橋を渡りながら、サリーが声を潜めて言う。
 花離宮の中には序列があり、中でもこの帝国で実権を持つ国内貴族の娘たちが権勢を振るっているらしい。

 なんだか思ったより気を遣う環境のようだ。たしかに母の口からも、花離宮は恐ろしい場所だと聞いてはいたが、それとは根本的に意味が異なる気がする。
 目と鼻の先に見えている華麗な宮殿が、途端に禍々しいものに見えてきた。

「とにかく、あまり目立つことはしないほうが、御身のためかと存じます……。花離宮に勤めている同僚からは、いい噂は聞かないので」
「わかったわ。気をつけるようにする」

 フランにしても、目立つつもりは毛頭なかった。先ほど皇帝本人も、「おとなしくしていろ」という意味の言葉をぶつけてきたではないか。