*

 帰城した当日、時間は遅かったが、情報の共有はいち早く済ませておきたい。当たり前に顔を見せたクリムトをともない、ライズは執務室へと向かっていた。
 外交会談は、まずまずの成功を収めた。相手国の大臣と顔見知りで親睦があるというシルビア姫を同行させたことも、交渉に有利に働いた。

 ライズの話のあとに、留守にしていた間の国内外の動き、政務の進捗についてクリムトから報告を受ける。
 そして、限られた者しか口にすることを許されない、弟の様子についても説明があった。

「気丈に振る舞っておられますが、いつ心臓が破れてもおかしくない状況です。おそらくは数日が山場かと……」
「……そうか」

 弟のルークとは幼い頃から共に育ち、関係も悪くはなかった。けれども先代皇帝の突然の崩御で、道を分かつことになってしまった。
 母の涙ながらの頼みもあり、命までは奪わずに幽閉を命じてから数年。ライズは一度も会いに行ってはいない。皇帝である自分は、情けをかけることはできないのだ。そうすれば、またルークは別の誰かに利用されることになる。