「待って、行かないで。……怖くないよ、入っておいで」

 せつなく懇願されて、フランは迷った。
 声の主は、呼びかけておきながらもベッドから起き上がることをしない。痩せた頬、掠れた声の感じから、病気なのだろうと思えた。
 知らん振りして逃げる選択肢もあったのだが、さらに気になることがひとつ。

(この人……ライズ様と顔立ちが似ている……?)

 横たわったままこちらを見上げている男性を、じっと見つめ返す。すると彼はふわりと微笑んで、驚くべきセリフを口にした。

「あぁ、その耳。その瞳。その毛色……君は獣人の、セイントマリアだね? ご先祖様が出会ったという伝説の聖獣。本当に実在したんだ……」

 フランは大きく目を見開いた。この人は、聖獣のことを知っている。

「ご、ご先祖様って……?」

 思わず変身中であることも忘れ、声に出していた。