厄介払いされた聖獣王女ですが、冷徹なはずの皇帝陛下に甘やかされています

(そういえば、奥にある森には行ったことがなかったわね……)

 城の裏手に広がる区画は、整備されている様子がない。人が立ち入っているのを見たこともないし、話題に上ることもなかった。
 やがて目の前に見えてきた森の入り口は、間近で見ると薄気味が悪くて、ひとりで入ることははばかられた。近づくとぞわぞわして、冷気が漂ってくるような気さえする。
 行ったところで、得られるものはなさそうだ。そう思い引き返しかけたとき、森の中からローブを被った人影が、突如として現れた。
 フランは素早く近くの茂みに身を隠した。
 物陰から、城のほうへと去りゆくシルエットをこっそりと観察する。

(あれは……クリムトさん?)

 皇帝の最側近である彼だが、今回の外交には参加していない。
 主人の留守中は別命を受け、城内で忙しくしていると思っていたのだが――森の奥にいったいなんの用があるというのだろう。
 妙に気にかかり、確かめずにはいられなくなる。
 クリムトの姿が完全に見えなくなってから、フランは森へと入ってみることにした。