「……」

 彼が無言で見つめてくるので、こちらも黙って見惚れてしまう。
 この瞬間がとても好きだと、心が歓喜していた。ドキドキして、辛いことも悲しいこともすべて吹き飛んでしまう。ずっとこうしていたい。こうしていてほしい。
 彼の腕の中で安心しきっていると、ふいに真剣な光を宿した瞳が、目の前に迫ってくる。
 そして次の瞬間――互いの唇が合わさっていた。

(私……キス、してる……?)

 まるで時が止まったよう。その直後、心の中で花火が幾重にも弾けた。心臓が高鳴り、鼓動が早くなる。

(嘘……これは、現実?)

 労わるようなファースト・キス。長いようで短い、初めての感覚だった。
 少し乾いているけれど、温かくて柔らかい不思議な触感。重ね合わせているだけで気持ちがよくて、しっくりと馴染んで、ずっと触れ合わせていたい――。
 衝撃のあまり目を閉じることもできずにいると、彼がそっと唇を離した。

「――あ……」