それが、気持ちを切り替える転機になった。
 マイナスの考えは胸の奥に封印して、顔を上げる。ライズを信じることが吉事に繋がると受け止め、待つことにしたのだ。

 祈りが通じ、見事に敵を退けた帝国軍が凱旋を果たしたとき、フランは城門のところまで一目散に駆けつけた。奥まった場所にある離宮から必死で走ってきたために、髪は乱れ、呼吸も整わない様相になっていたが、気にしてはいられない。

(ライズ様……!)

 門の内外に押し寄せるように集まった群衆のうしろから、身を乗り出して通りの様子を眺める。ちょうど帰着した兵士たちが跳ね橋を渡り、門をくぐって本城へと進んでいくところだった。
 先頭にいる隊を見て、思わず目を見開いた。
 ひときわ目立つ存在であるライズが颯爽と騎馬にまたがり、人々の声援に応えながらゆっくりと馬の足を進めていく。瞬きすら忘れ、その雄姿を目に焼きつける。

(あぁ……本当に、ご無事でよかった……)

 余裕の笑みさえ浮かべる彼は軍神のように頼もしく、心配は杞憂であったと胸を撫で下ろした。
 しかしよく見れば、遠目にも彼の鎧に激しい戦闘を行っていた形跡が刻まれているのがわかる。危険の中に身を投じていたということを目の当たりにさせられた。
 胸の前で震える手を組み合わせ、愛しい人の無事の帰還を天に感謝する。

『皇帝陛下、万歳!』

 国民の大歓声に迎えられたライズは毅然とした姿勢を保ったまま、城の中へと消えていった。
 フランは続いて帰城していく兵士らを見送りながら、ようやくの安堵を噛みしめた。