兵を率いて出立していくライズにひとつの言葉もかけられず、見送りの人々に交じって遠くから見つめながら、フランは胸が引き裂かれる思いだった。
 総大将である皇帝の命は最優先で守られているとは思うが、なにが起こるかわからないのが戦争というもの。しかも此度の戦は、だいぶ手こずっているらしいと聞く。

(また戦だなんて……)

 まだ記憶に新しい、祖国での争いが思い起こされる。傷つけ合い、命を奪い合う無情な慣習に終わりはないのだろうか。
 はらはらと落ち着かない日々が続いた。

(陛下が、どうか無事でいられますように……)

 寝ても覚めても、彼の身が心配でたまらない。
 食事をしていても味を感じられないし、こうしている間にも彼は危険な目に遭っているのではと不安が募る。
 ひとりで部屋にいると彼の姿や声が頭に浮かんできて、眠れない夜が続いた。
 ついには目の下にひどいくまができてしまい、健康を害したのは自分の不手際のせいだと、ある日サリーに泣かれてしまった。

「フラン様、どうかお気持ちを強く持ってください。悪いことばかり考えていては、それが現実になってしまいます」
「悪い想像が、現実に……?」