逃げるようにホールを出て、ふらふらと廊下を歩いていると、背後から腕を引かれた。
 振り向くと、頭の中をいっぱいに占領していたその人が、目の前に立っている。

「ラ……ライズ様? どうしてこちらに……」
「フラン。少し話そう」

 こっちにと言われて、誘われるままついて行った。心に光が差したような心境になりながら、大きな背中を見つめる。
 彼はどんな宴の席でも中心にいなくてはならない人だ。席をはずすことは難しいはずだが、会場を出るフランに気づき、わざわざ追いかけてきてくれたのだろうか。

 途中、バルコニーへと出られるアーチ型の通路があり、そこから外に出た。余計な注目を避けるためだろう。
 同階にいくつもあるバルコニーのひとつに、人影はなかった。
 夜風を気持ちよく感じながら、柵のそばまで手を引かれ、歩いていく。突き当たりで足を止めたライズに従い、向き合って立った。

 ふたりきりの改まった雰囲気に緊張が高まり、うつむいてしまう。
 そんなフランへ、慈しむような声がかけられた。